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マーベリックスvsヒート ドンチッチを巡るハイレベルな攻防 ゲームレビュー

オゼリア

はじめに

マーベリックスvsヒートのゲームレビューをしていく。
この試合の駆け引きのポイントは、
ドンチッチvsヒートのスイッチディフェンスだった。

ヒートがどのようにドンチッチを守ろうとしたのか、
そしてそれをマブスがどう攻略していくのか。
キープレーを見ながら解説していく。

ここから先は試合のネタバレを含みます

DALのMUMとMIAのスイッチコンセプト

この試合のドンチッチを巡る駆け引きの軸となる、両チームの狙いを確認していく。

DALのコンセプト:ドンチッチvsロビンソンのマッチアップを作る

DALのコンセプトはドンチッチvsロビンソンのマッチアップを作ること。
MIAのスターターで最もディフェンス能力の低いロビンソンがドンチッチをマークする状況を作れば、
ドンチッチが得点しやすくなるという考え。
この考えをMUM(Match Up Making)と言う。

MIAのコンセプト:条件付きのオールスイッチ

MIAのコンセプトは条件付きオールスイッチ。
どのような条件かというと、
「ドンチッチvsロビンソンのマッチアップができる時はスイッチ後にトラップ(ダブルチーム)を仕掛ける」
というもの。
ロビンソンはドンチッチを1人で守れないからトラップでサポートをつける、
それ以外のプレイヤーは1人で守れると信じる。
こういう感じ。

したがって駆け引きの軸をまとめると、
ドンチッチvsロビンソンをMIAはトラップでサポートできるか
DALはそのトラップを攻略できるかという構図。

序盤の攻防

試合序盤、まずはシンプルな攻防が行われた。

1Q 8:08のDALオフェンス。
ドンチッチvsロビンソンのMUM。

ロビンソンにマークされるフィニースミスがドンチッチにスクリーンをセット。
MIAはスイッチで対応することでドンチッチvsロビンソンのマッチアップが発生する。

ドンチッチの1対1開始のタイミングでタッカーがトラップに出る。
これがMIAのコンセプトだったスイッチ後のトラップ。
これに対してDAL。

左ウイングからグリーンがカット。
ドンチッチがパスを受けてレイアップ成功。
トラップ後のローテーションを切り裂く動きでDALが上回った。

1Q 7:30のDALオフェンス。
ドンチッチvsロビンソン。

ラウリーがトラップに出るタイミングをうかがっている。
バトラーなども、トラップ後にローテーションする準備をしている。

ここでドンチッチが選んだプレーは、「ダブルチームされる前に仕掛ける」。
画像の通りラウリーがドンチッチのもとへ辿り着く前にドライブ開始。
もちろんラウリーとは逆の右方向へのドライブ。
ここからドライブキックとエクストラパスでグリーンが3ポイント成功。

試合序盤からこのようなベーシックなスイッチ+トラップ攻略を見せるDAL。
しかしMIAもディフェンスのレベルを上げていく。

1Q 6:00のDALオフェンス。
ドンチッチvsロビンソン。

バトラーがトラップに駆けつけ、周りもそれに合わせて完璧なローテーション。

ドンチッチがパスを出すも、そのパスが繋がった時にはすでにローテーションが完了している状態をMIAディフェンスは作る。
この後ディンウィディーvsアデバヨに仕向けて見事ディフェンス成功。

DALオフェンスもMIAオフェンスも成功する場面が見られ、
駆け引き的にも点数的にも拮抗した状態で前半を終える。

3Qの攻防(MIAディフェンスの機能とDALの逆襲)

これまで説明したような駆け引きを経て後半に突入。

3Q 6:15のDALオフェンス。
ドンチッチvsロビンソン。

トラップする際にドンチッチに簡単にパスを出されると苦しいMIAは、パスコースを消しながらトラップに行くようになっていた。
この場面で言うと、タッカーが左ウイングのクリバーへのパスコースを消しながらトラップに行く感じ。
それに対してこの場面のDALは、クリバーがウイングからネイルへ移動することで新たなパスコースを作ろうとしている。

この時のタッカーが非常に上手かった。
ネイルに移動して新たなパスコースを作ろうとするDALの意図を察知し、
あえて大きくトラップに出ることはせずクリバーへのパスをケア。
ドンチッチはクリバーにパスできるつもりでいたためドリブルを止めてしまう。
タッカーの機転により、ドンチッチのところからチャンスを作らせなかった。

このようなプレーなどがあり、3Q前半はMIAディフェンスが駆け引きでリードする展開を作る。
ここからMIAディフェンスがドンチッチに対してさらに仕掛けていく。

3Q 4:10のDALオフェンス。
ドンチッチvsロビンソンを狙ってPnP。
これまでのMIAディフェンスであればスイッチ+トラップで対応していたが、
ここではいきなりトラップを仕掛ける。

https://twitter.com/dallasmavs/status/1493771629125591040?s=20&t=4R6J5oVzNOTxVv6e1toxog

少し意表をつかれたドンチッチ。
しかしここで慌てないのが彼のすごいところ。
冷静に右コーナーでオープンになっているディンウィディーを見つけてスキップパス。
そこから流れるようなエクストラパスとカウンタードライブの連続で、パウエルがバスケットカウントワンスロー。
MIAに傾いた流れを引き戻す大きなプレーとなった。

この直後のDALオフェンス。
これまで通りのタイミングでMIAはトラップを仕掛けるも、
ドンチッチのパスとローテーションを許さないパウエルのスクリーンによって3ポイントを成功。
DALが連続得点で流れを掴む。

ここから試合終盤にかけて駆け引きのレベルが1段階上昇していく。

終盤の攻防(トラップのタイミングの調整)

ディフェンスから流れを掴んだMIAが一時リードを作ったものの、
DALも負けじと盛り返し、接戦のまま4Q開始。

4Q 7:10のDALオフェンス。
ドンチッチvsヴィンセント。

ドンチッチに狙われまくるロビンソンをベンチに下げ、ヴィンセントをコートに立たせているMIA。
ヴィンセントにしたところでドンチッチのターゲットであることに変わりはないため、DALオフェンスがやることも変わらない。
ドンチッチvsヴィンセントのMUMを行い、1対1開始。
これまでの駆け引きから分かるように、ここで大事なのはMIAがいつトラップしてくるかである。
これまでは1対1が始まるタイミングでトラップしていたが、この場面では少し調整してきた。

ドンチッチがドライブでペイントエリアに踏み込むくらいのタイミングでトラップ。
ドンチッチの意表をつこうと必死のMIA。
ただドンチッチはいたって冷静。
この場面も的確に左ウイングのフィニースミスへキックアウト。
フィニースミスはパスフェイクでローテーションを破壊させつつ3ポイント成功。

ドンチッチが無敵状態になりつつある。

4Q 5:00のDALオフェンス。
ドンチッチvsヴィンセントのMUMを狙う。

スイッチ後のトラップが機能しなくなっているMIA。
ドンチッチvsヴィンセントのMUMをさせない方向に考え方を変えてきた。
ヴィンセントがスイッチではなくショウすることでブランソンのスクリーンをノースイッチでやりすごそうとしている。
これに対してDALはブランソンがパウエルのスクリーンを利用してからドンチッチにスクリーンセット。
これはラムスクリーンと呼ばれるプレーである。
ラムスクリーンにすることでドンチッチに対してショウしたいヴィンセントをブランソンが振り切った状態でスクリーンをセットしやすくなる。
ただこの場面はヴィンセントがなんとかラムスクリーンを乗り越えてショウできる位置関係を維持。
しかし最終的に過剰な接触によりファールの判定。
DALはボーナスフリースローを獲得。

4Q 2:40のDALオフェンス。
先ほどと同じプレーでドンチッチvsヴィンセントのMUMを狙う。

今度はラムスクリーンがきれいに決まりショウを阻止。
スイッチさせてドンチッチvsヴィンセントのMUMに成功。
スイッチを強いられたMIAは4Q5:00同様、ドンチッチがドライブしてきたタイミングでトラップを狙う。
ただ4Q5:00とは違い、トラップを狙うタッカーがドンチッチのドライブコースを閉じるような位置で待ち構えている。
これによりドンチッチはそもそもドライブが難しい状況に追い込まれた。

vsヴィンセントを作ることはできたもののドライブできないドンチッチ。
結局タフなステップバックスリーに仕向けられてショットは失敗。

スイッチ回避を試みるMIAにスイッチを強制したDAL。
この時点ではDAL優勢のポゼッションかと思われたが、
タッカーのポジショニングと過去のトラップの記憶によりドンチッチにドライブさせなかったMIA。
非常にハイレベルな駆け引きが見られたポゼッションだった。

4Q 2:00のDALオフェンス。
ドンチッチvsタッカー。

試合を通してマッチアップにこだわってきたDALとドンチッチ。
しかし先程のポゼッションでMUMにうまく対応されたことやエースが仕事をするべき最終盤であることが影響してだろうか、MUMせずにタッカーとの勝負を選んだ。

ドライブで4人のディフェンスを引きつけてキックアウト。
ワイドオープンでパスを受けたブランソンが値千金のコーナースリーをヒット。
「MUMしてないけど別にタッカーを倒せばいいんでしょ」と言わんばかりのエースのプレーだった。

DALはこの3ポイントで点差を9点に広げ、このまま試合終了。

試合総括

ドンチッチを巡って非常にレベルの高い駆け引きを見せたDALとMIA。
ただ、最後に勝負を分けたのはドンチッチのスペシャルさだった。
意表を突かれかけても冷静に的確な選択肢を見つけた場面や最後のタッカーとの勝負に勝利した場面など、
ドンチッチのプレー精度の高さがわずかな違いをDALにもたらした。

この試合のドンチッチのスタッツは21得点、FG5/19。
数字的には少し物足りないかもしれないが、その存在感とコートに与える影響は明らかに数字以上のものだった。

ドンチッチはやっぱりすごかった。
そんな試合でした。

今回のゲームレビューは以上です。
次回の記事もぜひ。

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