日本 98 - 88 フィンランド
大逆転での劇的勝利となったこの試合。
大きな流れが駆け巡る試合展開だったが、フィンランドも日本も試合を通して良いプレーを続けていた。
では、その双方の良さはどのようなプレーで、どのように発揮されていたのか。
フィンランドオフェンスと日本ディフェンスに着目して解説する。
フィンランドの攻撃と日本の守備
フィンランドのオフェンスパターンは大きく2つに分けられた。
①ビッグマンがパサーを務めるOff Screen
②もう1人のビッグマンをTopに配置してのPost Up
いずれもビッグマンがボールをコントロールするタイプのプレー。
これは、これまでの強化試合および初戦のドイツとは大きく異なるスタイル。
ただ、相手のスタイルがどうであれ、日本ディフェンスにとって重要なことは変わらない。
それは、日本の4番5番がペイントエリアでRim Protectionできるかどうか。
日本のRim Protecterがペイントエリアから排除されればフィンランドペース、排除されなければ日本ペースになる。
この観点を軸に、フィンランドとの攻防を1Qから振り返っていく。
好調な滑り出し(1Q)
1Q 9:35 フィンランド
Chin Rip
このChin Ripはフィンランドが多く活用したセット。
フィンランドは5をOne Pass Awayに配置し、x5をペイントエリアから排除。
そんな中、x1がスクリーン1枚で簡単に剥がされてピンチを招くも、ウィークサイドからx4(渡邊)がスーパーブロック。
ペイントエリアからx5は排除できたが、x4までは排除できなかったフィンランドのオフェンス設計ミスとも言えるポゼッション。
1Q 8:13 フィンランド
Chin Rip (Inverted)
同じChin Ripのプレー。
ただし、それぞれの配置が前回とは異なる点に注目したい。
まずパサーを5(前回は2)に変更。
そしてスクリーンユーザーを4(前回は1)に変更。
これにより、x5はボールマンディフェンス、x4はOne Pass Awayのディフェンスになり、ペイントエリアから遠ざけられた。
その結果、スクリーンを使ってカットする4のマルッカネンをペイントエリア内で誰もヘルプできず、レイアップを許した。
先ほどと同じプレーでも、フィンランドが適材適所の配置を作ったことにより、今度は日本のRim Protecterが2人ともペイントエリアから排除される結果となった。
このようにフィンランドは、5番をパサーにすることでRim Protecterを外に引っ張り出すパターンを多用した。
1Q 7:35 フィンランド
Pindown Curl - Back Cut
フィンランドは、5がパサーになるセットを主に3種類使っていた。
その2つ目が、このPindown。
3がCurlした後に4がPopからBack Cut。
x4は振り切られるも、x3が見事なカバーでインターセプト。
1Q 6:29 フィンランド
Post Iso - Kick Extra
Off Screenとは別の、もう1つのフィンランドのオフェンスパターンがPost Up。
4がPost Upするのに合わせて、5はTopでポジショニングするのが特徴。
x5はマークマンより4のPost Upへのヘルプを優先したため、5がワイドオープンに。
5は4からキックアウトパスを受けるも、そこで日本ディフェンスが完璧なRotation。
ショットチャンスを与えずに守りきった。
この場面はx1のRotationがすごく良かった。
トップの5に対して左Wingへのパスコースを切りながらクローズアウトすることで、他のディフェンスがRotationする時間を稼ぐことに成功した。
1Q 5:24 フィンランド
Pindown Curl - Pop
再び5がパサーのPindown。
Popでパスを受けた3がドライブでx3を振り切る。
しかしx2がPeel Switchでドライブを防ぐことに成功。
1Q 7:35もそうだったが、日本ディフェンスはx4やx5が排除されても、このように他のプレイヤーが体を張ってペイントエリアを守りきる場面が見られた。
構造的に回避できないピンチは、チーム全員のハードワークで乗り越える。
日本の勝利への執念がプレーによく表れている。
1Q 3:37 フィンランド
Post Iso
今度はPost Up。
5とx5の1on1。
Off Screenの対応に駆られて、x4がペイントエリアから排除された状況。
x5のホーキンソンは悪くないディフェンスを見せるも、ここは相手に軍配。
1人でペイントエリアを守りきるのは大変。
1Q 2:25 フィンランド
Post Split (DHO) - Short Roll Feed
続けてPost Up。
ただ、今回は1on1ではなく、Split Action。
5をパサーとして、Off Screenでプレーを展開。
3コマ目、x4とx5の2人ともペイントエリアから排除されてしまう。
しかし、x3がCornerからの思い切ったTagで、Short Roll Feedをインターセプト。
x4とx5以外のプレイヤーが、Tagできるのは自分しかいない状況でもTagしないことが多かったこれまでの日本ディフェンス。
その点、この場面のx3のTagは良い意識の変化の現れだった。
1Q終了
日本 22 - 15 フィンランド
フィンランドのオフェンスがなんとなく見えた1Q。
フィンランドの狙いとそれを実現する構造自体は見えたが、プレーが少々ドタバタしていた。
日本ディフェンスは、x4とx5だけでなく "全員で" ペイントエリアを守ることで対応できていた。
さて、日本は2Qもこのディフェンスを維持できたのか。
続きを見ていく。
フィンランドの反撃と攻勢(2Q〜3Q中盤)
2Q 9:08 フィンランド
Floppy - Slip (vs Switch)
2Qになってフィンランドは新しいセットを使ってきた。
それが、5がパサーになる3つ目のセットのFloppy。
x5はボールマンディフェンス、x4はOff Screen対応。
例によってビッグマン2人ともがペイントエリアから排除された。
この状況で、フィンランドは日本のSwitchミスに乗じてSlip。
ガラ空きのペイントエリアでイージーショット成功。
2Q 8:22 フィンランド
Chin Rip (Inverted) - Angle Change Pass
ここではChin Rip。
5がパサーで、4がスクリーンユーザー。
今回も、x4とx5はペイントエリアから排除されている。
1Q 8:13ではx4がスクリーン1枚で振り切られたが、今回はUnderすることで5からの直接のパスは阻止できた。
ただ、Popした2経由でパスを入れられてしまい、フックを決められた。
Underでスクリーンにかからなかったとしても、ペイントエリアでDeep Sealを許すとピンチになってしまう。
となると、スクリーンを ”使わせない" 努力が求められるか。
余談だが、これは5番に3ptの脅威があるからこそ、x5もわざわざアウトサイドまで出ていくインセンティブが発生している。
現代バスケではもはや当然となってきて見逃されがちであるが、5番のシュート力がこの構造の根幹を担っていることは忘れないようにしたい。
2Q 7:45 フィンランド
Chin Rip (Inverted) - Fade
フィンランドはChin Ripを続ける。
前回はUnderしてもDeep Sealを許してしまったx4。
今回はDeep Sealさえも許さない迅速な対応を試みる。
が、相手はOff Screen巧者のマルッカネン。
x4の先回りを察知してFade。
あえてスクリーンを越えないことでx4をスクリーンの向こうに追いやり、ワイドオープンを作った。
2Qに入り、フィンランドは日本の一歩先の思考でプレーしてくるようになっている。
2Q 4:38 フィンランド
Post Iso - Kick
今度はPost Up。
5はTopにポジショニング。
1Q 6:29同様、x5はTopのマークマンより、ペイントエリアでの4へのヘルプを優先。
1Q 6:29ではこのオープンになる5を、x4の位置のディフェンスがRotationして対応していた。
しかしこの場面では、x4がそのRotationに気づけず。
よってキックアウト1つであっさりと5にワイドオープンを与えてしまった。
1Qではできていたことが、2Qになってできなくなってしまった日本のミスだった。
2Q 1:15 フィンランド
Post Iso
再びPost Up。
今度はTopの4がStretchではなくSplit Action的な動きを見せる。
x5以外の全ディフェンスがSplit Actionに気を取られ、5は広大な1on1スペースを手にする。
1Qではレイアップを許したホーキンソン。
少し引き気味でドライブに備えたところ、今度はジャンパーを決められる。
2Q終了
日本 36 - 46 フィンランド
逆転を許した日本。
3Qも日本にとって試練の時間は続く。
3Q 3:50 フィンランド
Post Iso
フィンランドは後半もTopに5を配置してPost Up。
1と5でSplit Actionを行うことで、他のディフェンスを1on1のヘルプに行かせない。
4のドライブを止められず、結果的にファールになった。
3Q 3:20 フィンランド
Pindown - Reject
今度はPindown。
5がSlotの位置でパサーになる、お馴染みの形。
スクリーンユーザーの2はスクリーンを使うと見せかけて、Reject。
x2は逆をつかれ、2にレイアップを許した。
これはx4にとっても背後のスペースであるため、x5はもちろん、x4もRim Protectionできなかった。
2Qから3Qにかけてフィンランドペースで試合は進行。
ここまで見てきたように、
①フィンランドのプレーに落ち着きが生まれ、駆け引きで優位に立ったこと
②日本ディフェンスにミスが発生したこと
が主な要因となった。
しかし、ここから日本が最大18点差をひっくり返す大逆転劇を見せる。
大逆転(3Q終盤〜4Q)
3Q 2:30 フィンランド
Chin Rip (Inverted) - Reject - DHO
1Qから苦しめられてきたChin Rip。
相変わらず5がパサー、4がスクリーンユーザーで実行してくる。
これまではスクリーンを使われることで、マルッカネンにわずかなズレを与えてしまっていた。
しかしこの場面では、スクリーン方向に "そもそも行かせない" 体の向きを作り、5とのDHOに誘導した。
そしてそのDHOは、渡邊とホーキンソンの完璧なSwitchで一切の隙も与えずに守りきった。
フィンランドのやりたいことを阻止することで、日本のGood Dに繋がった。
素晴らしいディフェンスポゼッションだった。
3Q 1:40 フィンランド
Floppy - Iso
次はFloppy。
2QにはSlipでイージーショットを許したプレー。
しかし、ここでも日本はOff Screenでチャンスを与えない。
そのためパサーの4(マルッカネン)はパスの出しどころを見つけられず。
残された選択肢は自分のアイソレーション。
さあマルッカネンvs吉井。
吉井がペイントエリアに侵入させない素晴らしいフットワーク。
マルッカネンにタフなプルアップを打たせた。
そもそもペイントエリアがこれだけ密集している中、吉井のディフェンスを突破できたとしてもレイアップは難しい状況。
Off Screenでのワイドオープンさえ与えなければ、Floppyはスペーシング的に有効なプレーにはなりにくい。
3Q終了
日本 63 - 73 フィンランド
フィンランドのオフェンスに慣れてきて、ディフェンスからリズムを作った日本。
4Qに入ってさらに勢いが増し、ついに同点に追いつく。
焦りが見えるフィンランドは1on1主体のオフェンスに切り替わっていく。
4Q 4:30 フィンランド
Post Split (DHO)
フィンランドの1on1と言えばPost Up。
ただ、Topの4の初期位置が、3ptラインの外側ではなく若干内側になっている。
これによりx4がペイントエリアに入ることができ、5の1on1は難しくなった。
そこでフィンランドはSplit Action。
3をx3が猛烈にChaseし、ジャンパーを外させることができた。
心理的影響が作用しているのかは分からないが、フィンランドは4のポジショニングにも3のシュートタッチにも乱れが出た。
一方で日本は、5人ともよく足が動いている。
4Q 3:45 フィンランド
Pindown - Post
次はPindown。
5がSlotでパサーになるいつもの形。
日本はもはや、スクリーン1枚程度ではズレを与えないディフェンスになっている。
ここでも2にチャンスを与えなかった。
そこでフィンランドは4のPost Upに切り替える。
この際にスペーシングのためか、5がSlotからDunker's Spotに向かった。
しかしこれによりペイントエリアが大渋滞。
日本にとってはラッキーな展開でマルッカネンのドライブを防ぐことができた。
5がDunker's Spotにポジショニングすること自体は、悪い選択ではない。
むしろ合わせやオフェンスリバウンドの面で多くのメリットがあるため、褒められるべき行動。
ただ、この試合の駆け引きの争点は "ペイントエリアのスペース" 。
よってこの試合のこの点に関して言えば、致命的なポジショニングミスだったのかもしれない。
4Q 3:15 フィンランド
Pindown - Drive Kick
連続してPindown。
ただ、パサーを1が務めるこの試合では珍しいパターン。
したがってx4もx5もヘルプポジションにいる状態。
2のレイアップはきっちり防ぎ、キックアウトパスを出させる。
わりとオープンを与えた日本ディフェンスだったが、マルッカネンまでもが3ptをミス。
日本のディフェンスのレベルがぐんと高まり、フィンランドのシュートタッチががくんと乱れた4Q。
この直後、河村がマルッカネンの上からプルアップスリーを沈め、勝負あり。
4Q終了
日本 98 - 88 フィンランド
見事な大逆転劇だった。
その一言に尽きる。
総括
解説してきたように、フィンランドのオフェンスは主に2種類だった。
1つは、アウトサイドでビッグマンがパサーになるOff Screen。
もう1つは、もう1人のビッグマンをTopに配置するPost Up。
いずれも日本のビッグマンをペイントエリアから排除する良いスキームだった。
実際に試合中盤、日本はこの構造にしっかりと苦しめられたし、逆転していく際も特に根本的な解決策を見出していたわけではなかった。
しかし、日本はそこで総崩れしなかった。
これが非常に大きかった。
そして試合が進行するにつれて、日本は1つ1つの駆け引きに順応。
4QにはフィンランドのOff Screenを十分守れるレベルに仕上げた。
一方で試合終盤に崩れてしまったのがフィンランド。
日本の脅威的な追い上げを受け、4Qにちょっとしたポジショニングやショットのミスを繰り返してしまった。
これぞスポーツ!と言えるような試合だった。
合理的な戦術だけで勝敗は決まらない。
それ以外の多くの要素も絡み合うことで、最終的な命運が分けられる。
めちゃくちゃ良い試合。
ナイスゲーム!
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