スロベニア 103 - 68 日本
スロベニアのオフェンスは非常に美しかった。
日本ディフェンスの弱点を徹底的に突く構造でオフェンスを組み立て、試合を通して主導権を握り続けた。
もちろんその中心としてスロベニアを牽引したのは、ルカ・ドンチッチ。
ドンチッチがその能力を駆使して、いかにこの試合を支配していったのか。
日本のディフェンスシステムを簡単に説明した後、試合展開を戦術的に振り返っていく。
日本のPnRディフェンス
Show
日本のPnR Coverageは基本的にShow。
このShowは以下画像のように、 "もう1人のビッグマン" によるTagまで行われて初めて、チームディフェンスとして機能する。
強調したように、Tagは "もう1人のビッグマン" でないと意味がない。
なぜなら日本の2番3番プレイヤーのサイズでは、彼らがTagしたところでボールマンを苦しめるには至らないためである。
4番がCornerにいる場合のShowコンセプト(Cornerの4番がTagを行う)
Drop
前回のフランス戦からホーキンソンが出場可能に。
それに伴い、Screener's Dがホーキンソンの時は、Dropを使うようになった。
この意図としては、ホーキンソンの高さはペイントエリア内で発揮してほしいという思いがあると考えられる。
だからShowなどでアウトサイドに出て行かせずに、Dropでペイントエリアの守りに注力させる選択をしているはず。
果たして、スロベニアにホーキンソンの高さは通用したのだろうか?
という感じで、日本のPnR Coverageについて軽く振り返った。
スロベニアは日本のこのディフェンスをどのように攻略したのか。
ここから具体的なプレーとともに解説していく。
スロベニアの日本攻略法
1Q
今回まとめたスロベニアのPnRは主に2パターンに分けられる。
① ビッグマンにTagさせないようなアライメントでPnRを遂行するパターン
② PnRでTagを引きつけることで生まれたワイドオープンの味方にパスを飛ばすパターン
1Q 4:42 SLO
Spain PnR (vs Ice) - Skip
この場面のSpain PnRは、上記の②にあたる。
Cornerのx4のTagを引きつけてのスキップパスで、あっさりとワイドオープンのコーナースリーを演出した。
先ほど説明したように、日本のPnRディフェンスはTagありきのシステム。
スキップパスを飛ばされると、守りきるのは非常に困難。
だからこそ、ドンチッチのパススキルは日本にとってあまりに大きな脅威となっていく。
1Q 3:00 SLO
Corner Filled PnR (vs Ice) - Reject - Skip (Angle Change Decoy)
この場面は①でもあり、②でもあるプレー。
① Tag役のx4をOne Pass AwayのCornerに配置することでTagさせなかった。
② x4の代わりにx2がTag的にヘルプに来るも、ワイドオープンになる2へ簡単にスキップパスを供給。
x2による果敢なヘルプではあったが、やはりドンチッチの選択肢を狭めるにはサイズが乏しかった。
少なくともx4のサイズがないと厳しいが、そのx4もOne Pass Awayの位置からはなかなかヘルプに出られなかった。
よってこの場面のような展開が生まれた。
x4を釘付けにし、x2にTagさせている中での、1のトップ方面への移動(Fill)も地味に効果的だった。
このFillにより、スキップパスを受けた2に対してx1がRotationできなくなった。
つまり必然的に超ワイドオープンが生まれる。
1Q 0:57 SLO
High Short PnR (vs Show) - Short Feed
この場面は②、Tagを引きつけてパスするパターン。
x4がShort CornerからTagに出るも、マークマンである4がそれによってワイドオープンになり、Handlerからパスを受けてイージーショット。
かといってx4がTagしていなければ、Rollする5がパスをもらってダンクしていたであろういやらしい状況。
日本はTagしないとPnRを守れないが、そのTagがスロベニアに良いように狙われている1Q。
この駆け引きの構造はまだまだ続く。
2Q
2Q 9:10 SLO
Corner Filled PnR (vs Ice) - Reject - Roll Feed
この場面は①、そもそもTagさせないアライメントでPnRするパターン。
4をウィークサイドのWingに配置することでx4をペイントエリアから排除。
こうしてx4がTagに入れない状態を作った上で、PnRを実行。
広く空いたペイントエリアへ飛び込んでくるHandlerとScreener。
これをホーキンソンのDropだけで守ることはできなかった。
4番プレイヤーをWingに配置することで、Rim Protectionの人数を1人に制限できる。
これがStretch 4の真価。
2Q 2:22 SLO
High PnR (vs Drop) - Skip (Angle Change Decoy)
②の、Tagを引きつけておいてスキップパスを飛ばすパターンのプレー。
日本はスロベニアの4がCornerにいるため、x4がCornerからローリスクでTagに入ることができた。
しかしそれは、スキップパスを飛ばされなければの話。
この場面ドンチッチがあっさりとスキップパスを出したため、ローリスクでもなんでもなく、Tagの逆をつかれた。
また、ここでもWingの2がトップ方面へ移動(Fill)していたため、スキップパスに合わせてx2がCornerにRotationすることもできなかった。
繰り返しになるが、
日本ディフェンスはTagをしなければ、直前の場面のようにPnRで普通に失点をしてしまう。
でも、Tagをすればスキップパスが飛ばされる。
後手後手に回らざるを得ない日本。
スロベニアとドンチッチがすごい。
2Q 1:50 SLO
High PnR (vs Drop) - Roll Feed
この場面は日本ディフェンスにとって好都合な展開が起きた。
例によって4をマークするx4がCornerからTag。
ただ珍しいことにドンチッチは、Tagが待ち構えているにもかかわらず素直にRoll Feedしてくれた。
この時、もし4の位置がCornerではなくShort Cornerであれば、1Q 0:57のように4へ直接パスしたと思われるが、この場面はそうでなかった。
ドンチッチといえどもこの配置では4へのパスコースを見出せず、5へのパスを選択するしかなかった。
という日本にとって好都合なスロベニアの配置。
となればディフェンス成功だ!と思ったところだったが、結末は5のポストプレーをx4の吉井が止められずに失点。
このように、日本はx4がRim Protectionできたとしても、そのRim Protectionが機能するかどうかはまた別の話。
渡邊雄太がいてくれれば、、、そう思わされる場面だった。
2Q 0:15 SLO
High PnR (vs Ice) - Drive Kick - Put Back
前半ラストポゼッション。
スロベニアは①パターンでもあり、②パターンでもある完璧なオフェンスで前半を締めた。
① 4をWingに配置することで、Tagをx4にやらせない。代わりにアンダーサイズなx2にTagさせる。
② ドンチッチがドライブでそのx2を引きつける。さらに、それに呼応したx4のRotationまでも見切り、4へキックアウト。
これまでの総まとめのようなポゼッションだった。
単純な課題で同じように失点を繰り返している日本。
ただ、正直この構造的問題を解決するために必要なタレントが日本には不足している。
スロベニアが格上すぎる。
3Q
スロベニアの勢いはハーフタイムを挟んでも止まらない。
3Q 9:49 SLO
Zoom (vs Drop) - Roll Feed
後半最初は、①のx4にTagさせないアライメントでのZoomからスタート。
x4がもしx2の位置にいればTagできただろうが、このトップの位置からはTagに行ったところでそもそも効果的なRim Protectionにならない。
完全にx4がペイントエリアから排除されてしまった。
3Q 8:55 SLO
Corner Filled PnR (vs Show) - Roll Feed
今度も①パターン。
スロベニアは例のごとく、4をWingに配置することでx4をペイントエリアから排除。
Rim Protectionに参加させない状態を作った。
ただ、日本もやられっぱなしにされるわけにはいかない。
そこでハーフタイムに手を打った。
それは、これまでDropしていたホーキンソンの対応をShowに変更すること。
ペイントエリアを空けてでもドンチッチにプレッシャーをかけていく試み。
が、そこはドンチッチ。
DropだろうがShowだろうが関係なく簡単に5へRoll Feed。
ガラ空きのペイントエリアでパスを受けた5のダンク成功。
3Q 6:20 SLO
Horns Flare - Corner Filled PnR (vs Show) - Short Roll Feed - Kick
ここも直前と全く同じ①のパターン。
スロベニアは5をWingに配置してx5をペイントエリアから排除。
日本はShowでHandlerにプレッシャーをかけるも、Short Roll Feedを許す。
慌てたx1とx5が遅れてTagするも、冷静にキックアウト。
ワイドオープンのコーナースリー成功。
Tagさせないアライメントでオフェンスを組み立てつつ、Tagを引きつけてのパスも出しまくる。
日本は止める手立てが見当たらない。
3Q 5:07 SLO
Zoom (vs Drop) - Drive Kick
ここは②のTagを引きつけてパスを出すパターン。
これまでも②パターン自体は何度もあったが、今回はSingle SideのCornerに4を配置する形で行われた。
つまり、x4はTagに出ればPnRディフェンスに加勢できるものの、自身のマークマン(4)へのRotationは誰にも期待できない、そんな状況。
それでもx4はTagに行かないわけにはいかないためTagするが、それをドンチッチが見逃してくれるはずもなく。
やはり4にキックアウトパスを出されてしまう。
スロベニアが自力で作り出したスロベニア有利な環境で、ドンチッチというモンスターが暴れまくっている。
3Q 1:53 SLO
Horns Flare (Ghost) - Drive - Dive Feed
まだまだ続く。
今度は①の、x4にTagさせないパターン。
スロベニアは4をOne Pass AwayのCornerに配置して、x4をペイントエリアから排除。
x3がTagするしかない状態を演出。
日本はx3がTagしたはいいものの、x3のTagではPnRが普通に止められない。
x4がTagできなくなった時点で打つ手なしだった。
4Q
4Q 9:40 SLO
High PnR (vs Show) - Angle Change
点差が空いた4Q。
スロベニアは変則的な①パターンのオフェンスからスタート。
High PnRに合わせて左サイドで3と4がFlare Screen。
はじめはCornerにいた4のポジションがWingに変更された。
これによりx4は、CornerからTagしたと思った次の瞬間には、WingからTagしていることとなった。
その結果、Handlerが最もパスを出しやすいOne Pass Awayで4がワイドオープンに。
スロベニアもしっかりとそこへパスを供給。
日本はニュージーランド戦でWingから強引にTagをしてWingにパスを繋がれるパターンをやられまくった経験がある。
だからWingからのTagは我慢していたわけだが(それで守れていたかどうかは別の話)、スロベニアのFlare Screenによる巧みなポジションチェンジで誘発された。
4Q 9:10 SLO
Zoom (vs Show) - Short Roll Feed - Kick
そして最後は②パターン。
ZoomでSingle Sideからx4のTagを誘う。
Short Roll Feedから冷静にキックアウト。
誰もRotationできない場所でパスを受けた4がワイドオープンの3ptを放つ。
総括
スロベニアのペイントアタックを止めるには、日本の ビッグマンが2人がかりでペイントエリアを守る 必要がある。
しかし、それをスロベニアに完璧に利用された試合だった。
まず、そもそもビッグマンがTagに行けない配置を作られる。
それでPnRを普通に止められない場面もあった。
また、Tagに行ったら行ったでドンチッチが、その先でワイドオープンになるプレイヤーへ何度も簡単にパスを供給した。
Tagしても地獄、しなくても地獄。
ドンチッチの圧倒的な能力を見せつけられた。
ドンチッチにディフェンスで対抗するなら…
日本ディフェンスがドンチッチの攻撃力に抗うなら、ざっと以下3つのやり方が思い浮かぶ。
- ドンチッチの1on1に対応できるビッグマンでSwitch
- サイズと身体能力を兼ね備えた2番3番プレイヤーを加えた4番5番でなくともTagできるラインナップでのShow
- ゴベアのようなRim Protecterに全てを託すDrop
どのやり方も現実的とは思えないが、唯一1つだけ、2に関しては渡邊八村の2人が加わった日本代表であれば可能性があるかもしれない。
スーパースターと戦うための戦術を遂行するには、やはりそれ相応のタレント力がこちらにも求められる。
日本代表にそんなメンバーが集まる日が来たらその時には、今回のスロベニア戦を思い出したい。
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