PnRを前半はSwitch、後半は主にShowで守る日本。それらに対してNZLはどのようなカウンターを見せたのか。
PnRの戦術的駆け引きを解説した上で、そこから見えてきた日本Defの課題と期待について触れていきたい。
日本のディフェンスコンセプト(前半)
まず、前半の日本のDefコンセプトから。
日本は前半の多くの場面でSwitchを選択。ただ、Switchすれば富樫河村のところでサイズのミスマッチが発生するため、そのミスマッチを解消するまでが日本のSwitchのパッケージと言える。
以下でそのミスマッチの解消方法を説明。
Switch時のミスマッチ解消方法
ミスマッチ解消の手段は、Tag Switch。
Tag Switchとは、画像のようにDiveの際に、5のマークをx4がx1から引き継ぐこと。
はじめは5とx1のマッチアップだったのを、5とx4のマッチアップへと調整することで、サイズのミスマッチを緩和する。
また、日本はTagをx4が行うことを重視している。そうでないとTag Switchしても依然苦しいサイズのミスマッチが続くことになるため、というのが理由。
そのため、画像のようにx4がWingにいる場合は、x4がWingからTag Switchするルールとなっている。
日本のSwitchへのNZLの攻撃
さて、日本のSwitchについて説明したが、NZLはこのSwitchから主に2つのパターンで得点していた。
- 日本のTag Switchミス
- MUM(スピードのミスマッチ)
2つについて、順に説明する。
1. 日本のTag Switchミス
Diveの際のマークの引き継ぎが円滑にできずに、ワイドオープンを与える場面がいくつかあった。とはいえ、試合が進むにつれてこのミスは減っていったため、本戦では問題ないはず。
2. MUM(スピードのミスマッチ)
説明したように日本はTag Switchでサイズのミスマッチは解消していたが、Switchする限り、スピードのミスマッチはどうしても解消できない。そのため自力で守りきる必要がある。 NZLはこのアウトサイドでの1on1を意図的に作って狙ってきた(これをMUMと言う)。NZLは前半でこのMUMを5回行い、そのうち4回を成功させた(個人調べ)。
さすがにこれだけ高い成功率でやられると、Switchが成立しない。
そこで、2Q終盤からはPnRのCoverageをSwitchからShowへと変更した。
日本のディフェンスコンセプト(後半)
2Q終盤および後半の日本のDefコンセプト。
Switchが成立しなくなったため、Showに変更。Showの際もDiveをケアするTagが必要となる。
以下でそのShowとTagについて説明。
日本のShowとTag
x5がShowをしている間、x4がTagで5のDiveを一時的にケアする形となっている。これもSwitchの時と同様にx4がTagするルール。
そのため、この画像の例だとTagはx4がCornerから行う。
一方で、x4がWingにいる場合は、x4がWingからTagする。
日本のShowへのNZLの攻撃
日本が2Q終盤から始めたShow。これにNZLは、前半は苦労するも後半には明確な攻略方法を見出してきた。
ここからしばらく、NZLが行なったShow攻略について具体的な例を挙げて説明していく。
3Q 9:05 NZL
High PnR - Angle Change - Skip
NZLは、4をWingに配置してPnRを行い、TagをWingから引き出す。そのTagが来たタイミングでAngle Changeすることで、プレーのきっかけとなるズレを作り出した。 日本としてはTagを逆手に取られた場面。
3Q 8:25 NZL
High PnR (Beating Show)
日本は、x5がShowで3の動きを一時的に止めたいところだが、3にShowを突破されたことでDefプランが崩れた。Tagのx4はファールで止めるのが精一杯。 あえてブラッシングしないことでx5のShowを中途半端にさせる、というNZLの上手さがあったプレー。
3Q 7:26 NZL
Corner Filled PnR - Short Roll - Kick (Angle Change decoy)
NZLは、PnRに合わせて3がAngle Changeを匂わせる動きでx3を引きつける。 これにより、日本はShort Rollへのx4のTagに連動するx3のRotationが間に合わなくなった。NZLはカウンタードライブでファールを獲得。
3Q 5:04 NZL
High PnR - Angle Change Get
9:05同様にNZLは、4をWingに配置してのPnRでTagを引き出した瞬間にAngle Change。 ここではx4がRecoverするまでの猶予でDHO(Get Action)に移り、2が3ptを放つ。ショットは外れたが面白い狙いだった。
3Q 3:23 NZL
Empty PnR (Beating Show)
8:25同様に日本は、x5のShowで1を止めることができずにドライブを許してしまう。NZLはドライブから、x3のTagとx2のRotationを冷静に見切ってKick Out。ワイドオープンの3ptを決める。 またNZLは、4をTopに配置してx4にTagさせない工夫もしていた。
3Q 1:00 NZL
High PnR - Angle Change - C&S
NZLは、ここでも4をWingに配置してTagをWingから引き出し、その瞬間にAngle Change。日本はAngle Changeに対応できず、そのまま3ptを決められてしまう。
この場面の背景として、x4の井上がTagしながらx2の須田に対して「4にTag Switchしてくれ」といったジェスチャーをしていた。 それに須田が気づかなかったため結果的にコミュニケーションミスとなり、4のワイドオープンが発生した。
Angle Changeで同じようなやられ方を繰り返していたため、「何か対応しないと」と考えた上での井上の咄嗟のジェスチャーだったと思う。気持ちは分かる。
本戦に向けて「このAngle Changeをどう守るか考えなきゃ」と思ったが、答えはおそらく非常にシンプル。
渡邊雄太がなんとかしてくれる
だと思う。
サイズと機動力を兼ね備えた渡邊であれば、同じようにAngle Changeされても1人で十分に守れるはず。渡邊がいかに特別な存在であるかをここで実感した。
とはいえ、この試合で渡邊に頼ることはできない。そこでベンチは4Qに以下3つの手を打った。
- CoverageをDropに変更
- 3番原、4番吉井のラインナップ
- フルコートプレス
それぞれについて順に説明。
1. CoverageをDropに変更
日本人ビッグマンたちがShowでHandlerを捕まえきれないのであれば、Dropの方がリスクが小さい。これはいたって単純な変更。
2. 3番原、4番吉井のラインナップ
この試合の4番5番は一貫して井上、渡邊飛、川真田の3人で回していたが、4番に吉井を入れて機動力を高めた。渡邊雄太に期待したい仕事を、吉井がここで任された形。 実際にはその仕事をする機会はほとんどなかったため、フルコートプレスのための4番起用となった。
また、4Q 5:55には、3番起用の原がTag Switchする場面もあった。しっかりボックスアウトを成功させる原はさすが。4番が吉井になることで低下するフロアのフィジカル総合値を原で補う感じ。
3. フルコートプレス
フルコートプレスを仕掛けてカオスを作ることで、まともにハーフコートオフェンスを作らせない。NZLとしてはx5を狙ってPnRしたいところだが、それを難しくした。これは策士。
その後、4Q後半で選手交代を行い、再び2ビッグに戻した。これによって4Q 4:40に一度、Showを突破される場面がやはりあったものの、フルコートプレスの効果が持続し、なんとかリードを保って試合を終えることができた。
以上がGame1での、日本とNZLのPnRを巡る攻防でした。
総括
NZLの3QのShow攻略が非常に鮮やかだったことが印象に残る試合内容。そこから見えた日本のDefの課題は主に3つ。
- Tag Switchの練度
- 5番の機動力
- Angle Changeへの対応
渡邊ホーキンソンも加わってこれら3つが解決されれば、日本のPnRディフェンスはそこそこ強力なものになるはず。
どうしても1番と5番がDefにおいて弱点となってしまう日本。
そこを渡邊を中心としたウイング陣がOnBall Defだけでなく、Tag Switchやリバウンドなどでどれだけサポートできるか。
これが生命線となるのは間違いないはず。
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